こんにちは、日本橋店の今村です。

大変長らくお待たせいたしました。
前回途中までお送りしました、インタビュー記事の続きです。

前置きはこちら
インタビュー記事前編はこちら

もう前置きは必要ないと思いますので、どんどん行きましょう!

ティーファクトリー 制作 

平井佳子さん

のインタビュー、完結編です!

前回の記事も読み返しながら、じっくりゆっくり読んでください。
そして私と一緒に泣いてください(泣いた理由は後述します)

 

赤字が質問内容
紫字が質問の補足
黒字が平井さんの回答です。

 


質問:

「劇団」と「プロデュースカンパニー」固定メンバーがいることといないこと、それぞれの強み

「第三エロチカ」で劇団として、「ティーファクトリー」で固定メンバーを作らないプロデュースカンパニーとして。
2種類の公演の打ち方を経験してきた平井さんにとって、この違いや
強みはどういうところにありますでしょうか。

平井:

劇団からスタートとしてよかったと思います。つまらない揉め事とか煩わしい人間関係とかを含め、長いスパンで劇世界を創っていく目線を共有できる経験は大事だと思う。スタッフでも俳優でも。

小劇場の主宰者は、劇作・演出・主演とこなしてスタートする人が多かったですが、皆どこかに絞られていきますよね。

「川村毅は劇作家」宣言としてティーファクトリーを創りました。
劇作家としては、固定メンバーに限って書かなくてはならないことは辛くなっていたからです。

劇団「第三エロチカ」は川村を中心に、当時明治大学演劇研究会の同世代の仲間でつくったチームですが、去る者追わず来る者拒まずで20余年を経た解散前には、三世代に渡る40人を超える劇団になっていて、本来の目的を果たすことが難しくなっていました。そして劇団員たちをなんとか全員舞台に関わらせて育てていかねばということが、とっても重かった。

ティーファクトリーにしてから、搬入バイトってものが要るんだ!と衝撃でしたが(当然劇団員で無償でやってましたので)、もう一度劇団をつくりたいとは思わないです。

 


 

質問:

日本の演劇教育について

学生時代は必ずといって良いほど芸術鑑賞会があったり、演劇発表会があったりで、教育の中で演劇に触れる機会は少なくないと思っています。
それでもまだまだ演劇は特殊技能のように思われがちですし、音楽・映画に比べてメジャーな趣味とはいいがたいのかな、と感じます。どのような演劇教育があれば、演劇の発展につながると考えられますか?

 

平井:

そうですね。演劇、って構えないで、音楽や美術の授業のように、言葉を発するとか身体を動かすとか、演劇に近づく教育が子供のころから組み込まれるといいのかも知れませんね。

個人的なことですが、障がい児教育と演劇教育を結び付けられないかと思って、大学の専攻を志したのですが、受験に落ちたので現在に至り、不明で残念です。

 


 

質問:

この先演劇活動を続けていくにあたっての目標

毎回インタビューをお願いしている方にしている質問です。
30年以上の演劇活動を経て、今なお精力的に活動されている方から、
どのような目標を立てていらっしゃるのか、ぜひお伺いしたいです。

 

平井:

近年は一本ごとに本当に命がけ(体力限界)です。
あと何本創れるかわからないけど、後悔のないところまで創れたらと願います。

そして川村毅の戯曲を広く永く後世に遺したい。

ぜんぜん大そうなものではないんですが、ここまで一応生きてこれたので偉そうに言ってみると、
劇作家の生命を守るのは本当にたいへんなことなんです。

演劇は刹那なものですが戯曲の言葉は遺るので、いつか誰かがその時代の目線で新たな生命を吹き込んでくれたらいいなあと願っています。
それだけの力のある戯曲を遺していかなければならないですけどね

あと、これからの演劇に、少しでも私たちの経験が役にたつことがあるといいなあと思います。
ティーファクトリー公演に参加してくれる一人一人にも何かを遺せているといいんですが。

そして劇作家カンパニーとして、これからの劇作家のために何か出来ることはないか考え中です。

漫画で成功した作品を原作として映画やテレビドラマが創られる中で、演劇までもそれが主流になってしまうのは、劇作家カンパニーの制作者としては情けない。
勿論、お客様の演劇への入口として大切な役目を果たしていただいていて、素敵な多様性の一つだと思います。

でも演劇では、劇作家のクレジットは一番に、演出家と同じ級数で。という作品創りの体制が健全であろうとおもうのです。

 


 

質問:

今から演劇を始める、始めたての人たちに向けて「30年演劇を続けること」について

今は”長く続けること”に対して重きを置くひとたちは少ないのかもしれません。
プロデュースカンパニーが増えているようにも思えますし、実験的に一回だけ演劇作品に携わってみる、というひとも多いように思えます。
長く続けていくことへの心構えやメッセージなどがあれば、ぜひお聞きしたいです。

 

平井:

川村をみていると、本人の目標、意思をもっての「能天気」は大事かと思います。

どんな社会でも、心が折れそうなこと、必要とされているのか不安になることはあると思います。

特に川村は26歳で岸田國士戯曲賞を受賞したこともあり、20代に大いに持ち上げられ、30代に必殺手のひら返しで突き落とされましたから。笑

続けるのは誰の為でもない、自分のやりたい表現が尽きたならやめたらいいし、ただそれだけのこと。

振り回されないことです。自分さえぶれなければ、大丈夫です。

一回だけ演劇作品に携わってみる、というのもとっても素敵なことです。
生活の中の彩や、それからの舞台の観方も、何か変化があるでしょう。
小劇場ブームと言われたころもそういう方々はいらっしゃいました。

ある不動産業で財を成している演劇ファンの方が、

「演劇をやるひとは、演劇に選ばれているとほんとうに思う」

と仰ったことがあります。

こんな経済的にバカバカしいことに賭けるなんて普通の感覚じゃ出来ないですよね。

 

昔「わたしは役者として劇団に必要とされてないんじゃないでしょうか」と俳優志望の劇団員が言うので、

「役者やってくれって誰か頼んだ?」と応えました。

「自分がやりたいからやってるんだよね。誰かに頼まれなくたって生きてるのと同じこと。」

自分への回答です。

 

それだけのことです。

辞められるひとには一刻も早く辞めることをお薦めします。

 


 

3回にわたり連載してきましたこのメールインタビュー。
いかがでしたでしょうか。

個人的な話をすると、私自身も以前は俳優として舞台に立っていました。
生活が安定してなかったため、フルタイムで仕事をしながらでした。
稽古のために早上がりを申請しては同僚に嫌な顔をされ、
公演のために繁忙期に長期休暇を申請しては上司と喧嘩し、
体力と稽古参加率の問題で出演を諦めては涙を流し、
それでもなお、《演劇》にしがみついて生きていました。

体調を崩したりして一度舞台を降り、
その後この会社(ネクステージという会社です)に入社して、
劇団活動や俳優をすることだけが《演劇》に携わることではない、と気づかされました。
そして今はこうして、直接ではなく間接的に《演劇》に携わることが、
とても大切だと思っていますし、自分自身喜びを見出しています。

もういちど舞台に立ちたいか?と言われると、
「もうあんなしんどい思いは二度としたくないです」と言います、たぶん(笑)
しんどい以上に、楽しかったですけどね。体力づくりから始めなくては。

「辞められるひとには一刻も早く辞めることをお薦めします。」と結ばれたこのインタビュー。
30年以上演劇に関わり、演劇と共に生きて来られた平井さんのことを思うと、
決して突き放す台詞ではないことはお分かりいただけると思います。

とにかく演劇が好きで続けたくて仕方ない人。
「続ける」ことに対して「意味」を持たせている人。
迷いながらも「意味」を見つけようとしている人。
誰かに「続けなよ」と言ってもらいたい人。
今更後に引けなくなっている人。

色々な人がいるとおもいます。

その中で、平井さんは「自分がやりたいと思っているなら、続けたらいい」とおっしゃっています。
「続けるのは誰の為でもない、自分のやりたい表現が尽きたならやめたらいいし、ただそれだけのこと。」
この言葉がなによりも心に沁みます。

いちばん大事なのは、周りの人がどう思うかとか、将来の不安とか、今までかけてきた時間とか、
そういうのじゃなくて単純な「自分の気持ち」なのだなぁ、と思います。
(もちろん、「演劇をやる=将来の不安」になってしまう世の中がもう少しやさしくなればいいな、と思いますが)

「演劇が好き」っていう気持ちだけで演劇に携われたら、それがなによりだな、と思います。

 

あとがきが長い上に私の主観ばっかりになりましたが、今回平井さんのお話が聞けたこと、とてもうれしかったです。
もし、最後まで読んでくださったあなたが、平井さんの言葉にぐっときたなら、
ぜひ周りの人にこのブログを紹介してください。

そして、できればティーファクトリーを含む、たくさんの演劇をもっともっと観てほしいです。

 

ちなみに、今回このメールインタビューをおこなうにあたり数か月の時間がかかりました。
その間に、ティーファクトリーから新作の配信も始まりましたのでご紹介しますね。

エフェメラル・エレメンツ(2017年川村毅新作・演出新作)

前回ご紹介した「ハムレットクローン」が2003年の作品。
そこから約15年後の2017年の新作です。

「演劇は時代を映していきます」と平井さんはおっしゃいました。

ハムレットクローン」から15年経った今、ティーファクトリーの目には時代はどのように映っているのでしょうか。

前書きを読まれた平井さんから、こんなお言葉もいただきました。

 

こうしてその時代を説明したので一寸誤解があったかもしれませんが、
昔も今も、共同幻想はありません
みんな勝手に創ってただけで。
振り返るとやっぱり同じ時代に向き合ってた共通項があったね、という感じ、
だから今も同じ。ぜんぜん意識してなくても、今もみんな同じ時代に向き合ってるんです。
振り返ったときに気づきます、演劇は時代を映しているんだなと。

 

私が10年超ふんわりと携わってきた《演劇》も、振り返れば何か共通の想いがきっとあるのでしょう。
それをいつか「あの頃はさあ」と酒の肴にだれかと語り合う(お酒呑めませんが)こともあるかもしれません。

願わくば、「あの頃よかった」ではなく、「あの頃よかった」と言える未来がいいな。

演劇が廃れる文化でないことを祈っていますし、そのために私たちはいつまでも走り続けます。

みなさまの演劇ライフが、これからさらに30年、良いものになりますように!!

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