いつも演劇.jpをご覧いただき、ありがとうございます。
今回新しいコーナーといたしまして「劇団突撃インタビュー」を始めることとなりました。
■劇団突撃インタビューって?
【観劇三昧】とつながりが深い、噂の「あの人」に観劇三昧が突撃インタビューします!
役者/脚本・演出家/劇団代表など、普段は舞台の上でしか見ることができないあの人の、
なかなか聞けない本音や裏話、演劇に対する想いを存分に語っていただきます。
これを読めばもっと劇団が好きになるかも?知らない劇団なら、知るきっかけになるかも?
そんな、日常にちょっとしたワクワクをお届けする新コーナーです。
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新コーナーということで、第0弾!プレオープンを実施します。
今回ご協力いただいたのはこの方!
先日衝撃の劇団解散を発表された「時間堂」堂主(代表)であり、作演出家のこの方。
黒澤 世莉(くろさわ せり)さん!!
はい!身内(ネクステージの社員です)!!
2016年8月よりネクステージに入社した、黒澤世莉さん。
現在は営業マンとしてバリバリ活躍されています。
本日は、社員同士という立場をちょっと忘れて、【観劇三昧】が全国展開を始めた初期時代からかかわっていただいた劇団の代表者として、
色々なお話しを伺ってみました。
■時間堂
1997年演出家・黒澤世莉のユニットとして設立。2009年劇団化。
マイズナー・テクニックを基礎とし、国内外の古典から書き下ろしまで幅広い演目を「俳優の声と身体と関係性だけでシンプルに立ち上げる」上演スタイルが特長。
2014年、東京・赤羽にスタジオ「十色庵」を開設。2016年からは、飲食と観劇を楽しめる「時間堂レパートリーシアター」を毎月上演している。
『衝突と分裂、あるいは融合』で札幌劇場祭TGR2014 特別賞(作品賞)を受賞。
合言葉は「すごい、ふつうの演劇。ふつうの、すごい演劇」。
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公式HP:http://jikando.com/
Twitter:@jikando
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■黒澤世莉
1976年9月1日生まれ、東京出身。
1997年、演出家・黒澤世莉のユニットとして時間堂を設立。2009年に劇団化。
主に演出と執筆、翻訳を手掛ける。公共劇場との共同制作など外部演出・台本提供も多数。
俳優指導者としても新国立劇場演劇研修所、円演劇研究所、ENBUゼミなどで指導を歴任。
TGR札幌劇場祭作品賞、佐藤佐吉賞優秀作品賞、演出賞受賞。
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blog: http://handsomebu.blog.jp/
Twitter: @serikurosawa
Facebook: https://www.facebook.com/seri.kurosawa?fref=ts
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―1997年以前って演劇活動はされてたんですか?
黒澤世莉さん(以下黒澤):高校演劇はしてましたけど、ちゃんと演劇始めたのは1997年からです。
―演劇を始めたきっかけは?
黒澤:それよく聞かれるんですけどね。これっていうきっかけはなかったんですよ。
小学校で学芸会とかあるじゃないですか。それが、音楽と演劇に分かれてて、僕は演劇を選んだんです。
なぜかは今でもわからない(笑)人前で何かをするのが好きだったのかって思うんですが、そんなに積極的なタイプでもなかったですし。
―それが初めて関わった演劇、というわけですね。
黒澤:それを演劇と呼んでいいならね(笑)
―初めて観た演劇作品って何でしたか?
黒澤:記憶に残っているのは、外国の演劇を一人で観に行ったっていうのを覚えてるんです。小学校4年生の時に。
中世の格好をした男の人が喋っていた記憶はあるんですが、何の話なのかは全然覚えていない(笑)
―外国の演劇を、日本語で演じてたんですか?
黒澤:いや、確か字幕かイヤホンガイドがあったと思うんですが…記憶が曖昧で。
―小学校4年生でそれって、なかなか英才教育ですね。
黒澤:そうですね、両親とも、もともと俳優だったので。
―へぇ。そういうところも(演劇を始める)ルーツになってたりするんでしょうか?
黒澤:演劇をやれって言われたことは一回もないんですけどね。僕が生まれる頃には(両親は)現役を退いてましたし。
―俳優はやらなかったのですか?
黒澤:始めは、俳優やりたかったんですよ。それで演劇を始めて。
オファーも来ないし、じゃあ自分で作るかって思って演出を始めたら、そっちの方が褒められることが多かったので。
―1997年にユニットを立ち上げられた時は、ご自身で出演もされてたんですね。
黒澤:そうですね、演出したり自分で出たりしてました。今でもオファーがあれば出ますよ。ここ10年ぐらい来ないけど(笑)
―演出家のイメージが強すぎるんでしょうか。もし、演劇をやっていなかったら、どうなっていたと思いますか?
黒澤:現在進行形でなりたいのは、旅人です。
―そういえば趣味・旅って書かれてますもんね。
黒澤:ずっとバックパックを背負って、インドとかブラジルとかメキシコとか廻りたいです。
―日本に収まりきらないっていう意味では、黒澤さんぽいですね。
黒澤:旅行好きなんですよ。ただ、問題はそういう仕事はないっていうこと(笑)
―そうですね。職業・旅人は難しいですね(笑)
黒澤:旅ができる仕事、かなぁ。パイロットとか?
演劇してなかったら、本読んでるか旅してるかだったんだろうなって思います。
―なんとなく、普通の会社員っていうイメージじゃないですよね。
黒澤:事務仕事とか嫌いじゃないんですけどね。会社って、人間関係が大変じゃないですか。
いわゆる、「常識に当て込まれてしまう環境」っていうんですか?そういうの、すぐ気が病んでしまいそうで。
俳優たちが織り成す関係性が美しいなって思う
―「時間堂」作品を通して伝えたいこと
黒澤:二つあって。一つは…演劇の面白いところって、「俳優が舞台の上にいること」だと思うんですね。
舞台上の人間が、ちゃんと泣いたり喜んだり怒ったりすることが、面白いなって思うんです。
大げさなことをするんじゃなくて、ちゃんと「生きている俳優」を見られる、っていう。
「何か」がやりたくて、それが「うまくいったから嬉しい」とか「うまくいかなくてつらい」とか、そういうのを見ているだけで面白いと思うんです。だから、俳優がそういう素敵なパフォーマンスをしているんだっていうことを、ちゃんと伝えたいです。
―それって、演劇をする上ですごく大切なことですよね。
黒澤:もちろん、演出家によって、空間を見せたい、とか解釈を見せたい、とかあると思うんですが。僕は俳優たちが織り成す関係性が美しいなって思うし、それを見たいし見せたいです。よく時間堂で使っている言葉で、「すごい、ふつうの演劇。ふつうの、すごい演劇」ってのがあるんですが。
俳優がその場にいて、ちゃんと考えて、行動する。その場に生きているっていう、当たり前のことを徹底してやれている劇団って、実はそんなに多くないんじゃないかなって思ってるんです。
―なるほど。それを、時間堂では徹底されているんですね。
黒澤:もう一つは、「不寛容」との戦い、です。
―不寛容、ですか…?
黒澤:集団ヒステリーって嫌だって思ってるんです。その場の意思が、声が大きい方に偏ってしまうことだったりするんですけど。それって、すごく危ういことなんじゃないかと思うんです。
芸能人の炎上もそうだし、震災後の原発とか、政治家とか、色々ありますけど。対立する意見どうしって、すごく否定的になってお互いに話を聞かなくなったりするじゃないですか。
「不寛容」って、「相手が言っていることを聞かない」とか「自分の世界が決まっちゃってる」とか、そういうことだな、と。そういうのって昔からすごく嫌で、それを演劇作品にも取り入れることが多いんです。
―意見の対立は仕方ないけれど、相手の意見も包み込んで話し合おう、っていう?
黒澤:わかりやすく言うと、「人の話聞こうぜ」ってことなんですけどね。
聞いてるふりして聞いていないことってすごく多いじゃないですか。話しあってるふりしてるけど、自分の中では結論決まってる、みたいな。その結論に向けて、相手を誘導しようとするっていうこと。
―ああ、そういう人は多いですね。
黒澤:それは対話じゃないですよね。でも、自分もそういうことはしてしまいます。
だから、自分も現場も、そうならないように気をつけています。
―役者が生んだ感情や考え方を受け入れて、それに合わせて演出をしていかれているのかな、という印象を受けました。
演出するうえで、大事にしているのはやっぱりそういうところですか?
黒澤:理想は、「演出」が良いとか悪いとか言われない方が良いなって思ってて。それより、「お話がおもしろかった」とか「俳優がみんなよかった」とか言われたいなって思うんです。
―確かに、時間堂は奇抜な演出をしないですよね。それは、役者の力や脚本の力に委ねたい、という意識が?
黒澤:そうですね。無印良品みたいだったら良いんじゃないかなって。すごくシンプルだけどめっちゃ着心地良い、みたいな。
―それは大事ですね。
黒澤:おかずは普通なんだけど、ご飯と味噌汁がめっちゃ美味しい定食、みたいな。
―最後にはそこに戻りたくなる、という感じですね。
黒澤:もちろん好みはひとそれぞれなので、いろんなものを好きでいて欲しいんですけど。僕らは奇抜なことや凝ったことというよりは、ものすごく手をかけてこだわっているけれども、それがお客さんにはぱっと見じゃわからない、というのがいいなって。
―職人っぽい!
黒澤:あはは(笑)
人間は対話することが可能なのか。
―観劇三昧で配信している作品の中で、「初めて時間堂を見るならこの作品!」というのはありますか?
黒澤:それなら、「衝突と分裂、あるいは融合」ですね。なにせ、上演時間が観やすい(笑)
―1時間半ぐらいですもんね。
黒澤:舞台も、比較的現代の日本に近いし、出てくる人たちも「何話しているかわからない」っていう時間は少ないと思います。でも、テーマはちゃんと深い。「人間は対話することが可能なのか」っていうテーマに、直接切り込んでいる話だと思います。
―「衝突と分裂、あるいは融合」は、舞台装置も綺麗だし、話もわかりやすいですね。
観る前に「これを知っていたらもっと面白く観られる!」っていうこととかありますか?
黒澤:日本って、戦争に負けるまでは自分たちでも原子力の研究ってしていたんですね。
で、アメリカに戦争で負けて、研究資材とか壊されたり、研究がそもそも禁じられたりしたんですよ。
だから、日本と日本の原子力研究と研究者たちがたどってきた道、みたいなのを知っていると、「なんであの人たちはあんなに必死になって研究を続けようとするのか」っていうのがより分かるんじゃないかな、と思います。
―割と重厚な話だと思うのですが、それをわかりやすく昇華するための工夫というのは何かされていますか?
黒澤:俳優が、セリフを言う時に、あんまり「お芝居くさく」ならないけど、「明瞭に話す」ってことをする。ちゃんと、何を言っているのかが把握できて、かつ、馴染みやすく喋るっていうラインを大事にしています。
―それは、どんなお芝居でも大事なことですよね。
黒澤:そう思います。そういう、地味だけど大事なことを徹底することで、観るのがしんどくならないようにしています。
―観る側としてはとてもありがたいですね。
黒澤:あとは、俳優たちの演技も、曖昧な所がないように詰めていく。
例えば、セリフ一つとっても、「なんでこんなこと言うんだろう」とか、「どういうことを相手に要求しているんだろう」とか。目的をしっかり持つ。
そこで何が起こってほしいのか、を一つ一つみんなで共有してやっていきます。
「衝突と分裂、あるいは融合」は専門用語も多いので、そういう意味ではわかりづらいことはたくさんあると思うんですけど、「なんか今やばいんだな」とか、「これは失礼なことをやったんだな」とかいうことは、ちゃんと観客に提示できるようにしています。
―そういう、基礎的な部分をしっかり固められる、という印象ですね。
黒澤:僕は、そういうのが好きなんですよね。それが面白いのです。
時間堂<衝突と分裂、あるいは融合>
―今一番興味のあることって何ですか?
黒澤:旅がしたいな、ってのはさっき言いましたね(笑)
最近結構疲れているので、1年ぐらい温泉に入ってたいな、っていう。
5万冊ぐらい漫画を持って、有馬温泉とかで。
漫画読んで温泉入って筋トレして、みたいな生活を送りたい。
―それは私も憧れます(笑)
もっと演劇活動をしやすい環境にしたい
―今年いっぱいで「時間堂」は解散される予定ですが、黒澤さんご自身は演劇活動を続けられるご予定ですか?
黒澤:はい、そうですね。
―今後の目標のようなものはありますか?
黒澤:うーん、まずは「休みたい」(笑)
―なるほど(笑)
黒澤:なんかね、一回燃え尽きた感じがあるんですよ。だから、熱くなったものを冷まそうって時間を取りたくて。だから、その先のことは正直まだわからないです。
でも、やりたいことは二つあって。一つは、もっと勉強したいってこと。
最近公演するときに、「取材の量が足りないな」って思ったんです。
なんかここ最近ってすごくせわしなくて、時間に追われた感じだったんです。
だから、次やる時は、きちんと整えたところからスタートしたい。
―じっくり温めてから取り掛かりたい、というところでしょうか。
黒澤:もう一つが、若い人たちが、今よりもちょっといい環境で演劇ができたらいいなって思っているんです。もっと演劇活動をしやすい環境にしたいっていうのかな。
道路を整えてあげたい、というか。
今の世代って、「演劇するの辛い」とか「演劇やってたら変な目で見られる社会」っていうのあるじゃないですか。それって、今の世代でちゃんとしていなければ、次の世代はもっと辛くなりますよね。恨まれたくないなって(笑)
―アングラからの脱却、というか、もっと一般的な文化になってほしい、と。
黒澤:アングラはそれはそれで良い文化なんですけどね。「演劇」っていうのが、もっといい営みだよっていうことを、いろんな人に知っててほしいっていうのがありますね。
―この先の若い人たちが、もっと自由に演劇を選択できたら、とても素敵ですね。
黒澤:演劇やって「損したな」って思わせたら、悪いなって思うんです。
やりやすくしてあげたいなって思いますね。
―ありがとうございました。
時間堂 次回公演
時間堂最終公演『ローザ』
2016年12月21日(水)~30日(金)
十色庵
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