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2017.6.5(月)

その日は、朝から天気が不安定だった、、、

快晴だと思えば急に雨が降り出して、降ったと思ったら太陽が差し込んできて、と思ったらまた雨が降ってきて・・・

まるで、イベント準備に追われている我々の心を映し出した鏡のように、天気は落ち着かないんだ、この時はそう思っていた。

夜に、台風のような嵐が店を直撃するなんて露とも知らずに・・・

 

時計の針が18時30分を回ったころ、雨に降られた人たちが続々と来店してきた。

予約の確認、傘立ての指示、トイレのご案内、、、スタッフが堰を切ったように動き出す。

忙しなく動き回る最中、私は心の中の違和感を消せずにいた。

「いつも通りのイベントと変わらない、何ら違いはない、、、」

はずなのに、何だろうこの気持ちは、、、何かが起こる気がしてならない。

そんな店内のバタつき、私の心のざわつき、と反比例して、雨はすっかり止んでいた。

男はやってきた。

ジーパンに黒いTシャツ、それにトレードマークの眼鏡をかけて、男はやってきた。

いつもと変わらず飄々とした佇まいで、彼は店に入るなり一瞬にして溶け込んだ。まるで朝から店内にいたかのような落ち着きで時を待った。

その姿は、平穏そのものであった。

 

19:00

 

観劇三昧の黒澤が、簡単な説明を終えた後大きな声で彼の名前を呼ぶ。

「土田英生さんです」

数分前、店に現れた空気感と何も変わらない平穏さで、客の前に着く。

普通、人前に立つと高揚したり、硬くなったりする人がほとんどの中、彼は平穏そのものなのである。

「自然体」

この言葉が彼ほどに会う人が他にいるだろうか、、、?

まぁ、いるだろう。世界は広い。そんな人もきっといるだろうが、そうやって思わせるほどの自然さを彼は持っていた。

私は、記録係としての写真撮影を忘れるほど彼に見とれていた。まるでそれは、私と土田英生の二人しかこの空間に存在しないのではないか?そんな錯覚に陥るような自然さだった。

 

私が「写真撮影」を思い出した時には、すでに店内は大きな笑い声に包まれていた。

彼のトークには「境」が無かった。普段話している時とイベントで話している彼に「境」は存在しなかった。

だからこそ、観客も構えることなく、彼のトークに笑うことが出来るのだろう。

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小説創作の裏話、演劇の話、テレビ脚本の秘話、トーク内容は盛りだくさんであった。

私は、彼のトークにある超越したものを感じた。

 

自分の不幸話、スタッフの理不尽な対応、報われ無かった話などはトークの世界では、すでに手あかのついている話題である。

いや、それが悪いという話ではない。先人たちが作ってきた笑いの方程式にのっとった「鉄板」と呼ばれる話題であろう。

しかし大概は、そこに当時の感情(怒り、悲しみ)を乗っけて話すのが普通である。そのほうがリアリティがあるからだ。

誰でも一度くらいは聞いたことがあるだろう。ある芸人の「考えられへん!」という言葉は、その代表格と言っていい。

 

ところがである。土田英生の話しぶりにはその感情というものが見えずらい。というより、どこか俯瞰で見ているように語るのである。実際に自分が体験したことにもかかわらずだ。

それはやはり、彼の平穏さからきているのであろう。観客の笑い声が大きくなればなるほど、土田は平穏になっていくように感じた。

店内に笑いの嵐が吹きすさぶ中、土田の穏やかな表情を観ていると、私の頭の中にひとつの光景が見えた。

 

台風だ。

嵐の中にある、晴れ間。台風の目。

これが、この観劇三昧の中に今まさに存在している。笑いと興奮という嵐の中心には、穏やかな土田英生がいる。

彼は今までにこうやって数多の嵐を巻き起こしてきたのだろ。いつも変わらず穏やかな調子で。

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そんな土田英生が産み出した

「プログラム」(河出書房新社)

を読まずにはいられない。そう思わせてくれるトークイベントであった。

そこには、彼と一緒に二人三脚で歩き続けた担当編集者の存在があったことも、書き連ねたいと思う。

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そしてもちろん、彼が育った演劇界での次回公演も見逃してはいけない。

『きゅうりの花』

Cucumber+三鷹市芸術文化センターPresents
土田英生セレクション vol.4
作・演出|土田英生

出演|内田淳子 加藤 啓(拙者ムニエル) 金替康博(MONO)  神田聖司 諏訪 雅(ヨーロッパ企画) 千葉雅子(猫のホテル)  土田英生(MONO) [五十音順]

東京 三鷹市芸術文化センター 星のホール
2017年7月28日(金)-8月6日(日)

大阪 ABCホール
     2017年8月11日(金・祝)-13日(日)

 

 

「燕のいる駅」など数々の名作を生み出し、今小説家としても産声を上げた土田英生。

今後も彼は、演劇、テレビ、小説界の『台風の目』として在り続けるのであろう。

 

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